最高裁判所第三小法廷 昭和34年(オ)719号 判決 1962年8月14日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人等の負担とする。
理由
上告代理人増岡章太郎の上告理由第一点乃至第三点及び第五点について。
論旨は、原判決の憲法二九条違反にも触れて居るけれども、その実質は、罹災都市借地借家臨時処理法一一条所定の起算日につきなした原審の解釈の誤を攻撃するに帰着する。
而して、同一一条の定める罹災地借地権の存続期間一〇年の起算日について示した原審の判断は、その法意に徴すれば正当である。論旨は、独自の見解に立つて原審の判断を攻撃するものであつて、これを採り得ない。
同第四点について。
所論強制疎開は、戦争に起因してなされた措置であるけれども、決して、所論の如くに、「災害」とはいえない。原審が第一審判決理由を引用して、疎開跡地については、戦時罹災土地物件令六条の適用がない旨判断したことは、正当である。原判決に所論の違法はない。
論旨は、これを採用し得ない。
同第六点について。
原審認定の事情の下において被上告人村本登、同宮内忠直に所論借地権侵害の故意又は過失があつた事実を認めるに足る措信し得べき証拠はないとした原審の判断は、これを是認し得る。されば、原審が、右被上告人等の所論不法行為は成立しない旨判断したとて、民法七〇九条の解釈を誤つたものとはなし得ない。論旨は、畢意、原審の認定しない事実と独自の見解とを主張し、これに立脚して原審の認定判断を非難するに帰するものであつて、これを採り得ない。
同第七点について、
記録を検するに、原審昭和三三年一月一三日の口頭弁論期日において、上告人(第一審原告)の代理人は、「第一審被告寺師に対する損害金の請求部分を減縮する」旨陳述して居る。而して請求の減縮は、訴の一部取下に過ぎないこと及び控訴審において請求の一部を減縮したときは、その部分については、初めより係属しなかつたとみなされ、この部分に対する第一審の判決は、効力を失つたものとなることは、判例(昭和二四年(オ)第二〇七号同二七年一二月二五日第一小法廷判決、民集六巻一二号一二五五頁、同二五年(オ)第二五三号同二八年一二月八日第三小法廷判決、裁判集民事一一号一四七頁、昭和二四年(オ)第一四一号同年一一月八日第三小法廷判決、民集三巻一一号四九七頁)の示すところである。
されば原審において減縮せられた所論請求部分につき、原審が判断を示さなかつたことは当然であつて、これを違法とはいえない。論旨は、これを採り得ない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 石坂修一 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己 裁判官 五鬼上堅磐 裁判官 横田正俊)